遺言書の有無で変わる遺産分割の流れとは。川崎の相続専門の税理士が解説

遺産分割とは、その名の通り被相続人の財産を残された相続人で分けて相続することです。このとき遺言書があるかどうかで、遺産分割の流れが変わってきます。遺産分割において遺言書がどのような役割を果たすのか、遺言書の有無で比較しながら解説します。また、不動産の名義変更や預金の解約の手続きは遺産分割が行われていることが前提であるため、遺言書があれば、分割協議を省くことができ、それらをスムーズにすることができます。

遺言書があるとき

遺産分割の割合には、法律で基準が定められた法定相続分という考え方がありますが、必ずしもその通り分割する必要はありません。遺言書があるとき、記載された分割内容が法定相続分よりも優先されます。亡くなった方の遺志を尊重するルールとなっているのです。ただし、次の場合は遺言書があってもその通りにならないことがあります。

遺言書に不満があるとき

遺言書の内容に相続人が不満を示すこともあります、こうした場合、相続人の全員が合意すれば遺産分割協議を行って、分割の内容を変えることができます。「そんなことができてしまったら遺言書を書く意味がないのでは?」という疑問がありますが、その答えはこの記事の「さいごに」に記載しています。

また、もし相続人全員の合意を得られなかった場合は、遺言書の無効を主張することもありますが、遺言書が正式な手続きで不備なく作られていた場合は無効にするのは難しいでしょう。

遺言書が遺留分を侵害しているとき

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に認められた、最低限相続できる財産割合のことです。例えば被相続人が「全ての財産を長男に相続させる」といった遺言書を残したとき、二男など他の相続人は遺留分の侵害を訴えて、財産を多く相続した長男に対して自身の遺留分を請求することが認められています。これを遺留分侵害額請求権といいます。もちろん、請求権はあるものの請求しない選択もあり得ます。

遺留分の割合は、相続人が「直系尊属のみの場合」と「それ以外」の場合で変わり、前者の場合は法定相続分の1/3、後者の場合は法定相続分の1/2となります。遺留分の例を、相続人の構成を3パターンで下表に示します。

相続人配偶者と子供2人子供2人父母
遺留分1/21/21/3
法定相続分配偶者:1/2
子供A:1/4
子供B:1/4
子供A:1/2
子供B:1/2
父:1/2
母:1/2
請求できる遺留分配偶者:1/4
子供A:1/8
子供B:1/8
子供A:1/4
子供B:1/4
父:1/6
母:1/6

遺言書がないとき

遺言書がない場合は、相続人が集まって遺産分割協議を行います。相続人の意見や状況、相続税のシミュレーション、特例の有無を加味しながら、分割内容を調整していきます。税理士が立ち会って、書類収集や協議の進行、必要な資料作成などの事務を支援することもあります。

遺産分割協議で合意できたとき

遺産分割協議で話がまとまれば、遺産分割協議書を作り、その記載内容に沿った遺産分割を行います。財産目録が間違っているなどの特殊な事情がない限り、後から遺産分割協議書の内容を変更したり、別途法定遺留分を請求したりすることはできません。

遺産分割協議で合意できなかったとき

遺産分割が不調に終わったときは、家庭裁判所で調停をすることになります。様々な事情が考慮されますが、法定相続分が基準となります。

遺言書を書いた後に起こりうること

例えば複数いる子供のうち、特定の子供へたくさんの不動産を相続させたいと思っても、相続させる預金とのバランスを考えない遺言の内容にすると、相続税を払いきれず、結局手放すことになる可能性もあります。そもそもその子供は不動産を相続したいと思っていないかもしれません。

また、残された配偶者にたくさん相続をし過ぎると、二次相続のときに子供が負担する相続税が高額になり、困窮してしまうかもしれません。逆に配偶者に相続させる財産が少ないと、配偶者のその後の生活が不安定になってしまう可能性もあるでしょう。

さいごに:遺言書で円満・円滑な相続にするために

親が【よかれ】と思って作成した遺言書の内容について、「遺言書を書いた後に起こりうること」でお伝えしたように、思いがけない結果になることもよくあります。

また、「遺言書に不満があるとき」でお伝えしたように、相続人全員の合意があれば、分割の内容は変更することができてしまいます。つまり、【親の一方的な想い】だけでは、遺言書の内容は実現しない可能性があります。

分割の内容が変更されてしまうのなら、遺言書を書く意味があるのかと思われる方がいるかもしれません。仮にあなたが親だとした場合、天国から残された配偶者や子供が遺言書の内容を見た時に、どのような顔をしていてほしいでしょうか。【親の一方的な想い】だけで遺言書を書くと、相続人が感謝をしているのか、不満を持っているのかは、予想がつきません(賭けと言っても過言ではありません)。

だからこそ、生前に財産目録をしっかり作って財産を整理し、相続人と事前に相談しながら各自の状況をしっかり理解したうえで、遺言書に反映させることが大切です。そうすれば、【生きているうちに】、相続人から感謝を伝えられる円満・円滑な遺言書の内容になるでしょう。

財産目録については次の記事で詳しく解説していますので、気になる方はチェックしてみてください。

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