【事例紹介】生前対策で円満・円滑相続!STEP-1:課題の明確化
私は川崎を拠点に相続税専門の税理士を営んでいますが、相続税申告だけでなく、生前対策のお手伝いもしています。親の老後対策と、節税対策をお手伝いしたE様の事例を、3つの記事に分けてご紹介します。
第1弾である今回は、E様が抱えていた課題を明にしていったプロセスをご紹介します。皆さまに類似した課題もあるのではないでしょうか。
置かれていた状況
まずはE様が置かれていた状況をご紹介します。
家族構成と財産状況
川崎に住むE様の家族構成は、上図の通りです。
川崎に住むご両親は高齢で、物忘れが増えて、足腰も不自由になってきたので老人ホームに入ることも今後検討しないといけないと考え始めました。E様はご両親が所有している自宅に二世帯暮らしをし、お姉様も家庭を持たれて持ち家暮らしですが、遠方に住んでいます。
家族関係は悪くないのですが、お姉様は遠方に長く住んでいるので、近頃は密なコミュニケーションができておらず、E様としては意思疎通に不安がありました。
ご両親の財産は、2人合わせて預金8千万円と、E様の家族と一緒に住んでいる川崎の自宅4千万円相当です。
ご相談に至った経緯
当税理士事務所へ最初にお越しくださったのは、E様です。「両親が高齢になるなかで、長女には頼れない。自分が対処するしかないけれど、相続のモヤモヤを整理したかった」という考えから、相続専門の税理事務所を探しはじめたそうです。
E様には守るべき家庭があり、子が学生であるため、教育費にお金がかかる時期でご両親を経済的に支える余裕があるわけではありませんでした。「相続を受けた時に税金を払いきれるのか」、「長女と遺産分割で揉めて姉妹関係にヒビが生まれないか」といった不安を解消したかったそうです。また「毎日仕事や子育てで忙しく、相続について落ち着いて考える機会が持てない」といった日常生活の制約もあり、効率的に整理するためにも、税理士の力を借りようと思ったそうです。
課題を明確にするために問いかけたこと
ほとんどの人は、「不安」はあるものの、自分が抱えている「課題」が分かっているかというと、そうでもありません。「何が分からないのか分からない」といった状態です。これは相続に関する知識不足によるものなので、仕方がないことでしょう。
税理士はよく「医者」に例えられます。医者が診察するように、税理士もお客様の話をよく聞き、何が問題なのか、将来どんな問題が起きうるのかを診察します。
今回のE様の場合、ご両親とお姉様、E様が参加する話し合いの場を設けました。そして次のような問いかけをしていきました。一見単純な問いかけなのですが、考えていくうちに驚くほど課題が明らかになっていきます。
・「E様」がいつからいつまでの期間で、具体的にどのようなことで困りそうですか?
・「ご両親」が、いつからいつまでの期間で、具体的にどのようなことで困りそうですか?
主語を変えるだけですが、「誰が困るのか」を問いかけるのは大切です。なぜかというと、相続トラブルの多くは、【親】と【子】の認識齟齬によるものだからです。「誰が困るのか」「それは本当か」を突き詰めていくと、自然と解決するべき課題が明確になっていきます。
生前対策で取り組むことになった方針
E様とご家族への問いかけを重ね、最終的に以下の二つの方針を決めました。この二つの軸を家族全員の共通認識の基に、生前対策を練ることになったのです。
両親の老後生活費は両親の財産を充てる
E様は話し合いの前から、ご両親のお世話をすることは決めていました。しかし経済的に余裕があるわけではないので、介護費が必要になったとき、それを負担できる自信がありませんでした。その状況はお姉様も同じでした。一方で、ご両親は自分たちの介護にかかる費用をあまり考えたことがなく、課題意識に差がある状態でした。
そこで「ご両親の直接的なお世話はE様がやる。しかし介護費や医療費は、ご両親の財産から拠出する」ことを決めました。
相続税額はできるだけ小さくする
E様もお姉様も、相続した預金はできるだけ養育費や貯金に充てたい意向がありました。ご両親としても、できるだけ子たちの手元に残る金額を大きくしてあげたい意向がありました。
しかし相続する財産額が大きいので、相応の相続税は発生してしまいます。話し合いの結果、相続税額をできるだけ圧縮する工夫をすることになりました。
まとめ
ご紹介した2つの方針は、一見すると当たり前のことかもしれません。しかし相続では、親子で大切にしていることが違っていることが多いです。税理士のような第三者からフラットな問いかけをして、認識共有と意思統一をすることが非常に重要だと考えています。
次回は、E様とご家族が決めた方針を受けて、私が提案した選択肢をご紹介します。