【事例紹介】賃貸用不動産は「見習い期間」を設けよう。生前からできる相続対策
私は川崎で相続専門の税理士事務所の代表をしています。川崎は、マンションやアパート、商業用ビルといった賃貸用不動産が多いエリアなので、他の地域と比べても賃貸用不動産の相続に関するご相談が多いように思います。
多くの方は「相続税をどうやって節税するか」を考えがちですが、実は「相続税を支払った後」に大変な苦労をされる場合があります。当税理士事務所のお客様には、しっかり伝えるようにしていますが、賃貸用不動産絡む問題はよく起きています。そこで今回記事として取り上げて、生前にできる対策をご紹介したいと思います。
K様の事例
今回はK様を事例として取り上げます。K様は川崎にお住まいの男性会社員で、お父様が川崎市内に賃貸用アパートを保有されています。アパートは築20年ですが、お父様が大事に管理・修繕されてきたこともあり、今のところ不具合は起きていません。きれいなアパートで立地も良いため10部屋は常時、入居者で埋まっている状況です。
お母様は既にお亡くなりになっていて、K様は一人っ子なので、お父様が亡くなればK様がアパートを相続することになります。
アパートはまだまだ現役で使えそうですし、家賃収入も引き続き見込めそうです。しかしK様としては、「ずっと会社員だった自分がアパート経営をできるのか?」と不安を感じていたので「もしできなそうであれば、手放すこともあり得る」と考えていました。そこで専門家の助言を受けるために、当税理事務所に相談することにしたそうです。
客観的な視点で整理された選択肢を知りたい
K様からが解決されたい課題は明確で、「賃貸用アパートの相続について、考えうる選択肢を公平に並べて判断したい」でした。「公平」がK様にとっては重要なポイントで、不動産について利益が絡まない相続税専門の税理士であれば、客観的な視点から、選択肢を提示してくれるはずだと考えたそうです。
実は、当税理士事務所にお越しいただく前に、いくつかの不動産会社に相談していたそうです。そうしたら、どこも違う提案が返ってきそうです。1件目の不動産会社の提案は「これを機に売却しましょう」、2件目では「収益性を更に良くするため、建て替えましょう」だったそうです。後で調べてみると、1件目の会社は不動産売買をしている会社で、2件目はアパートの建て替えや修繕を手掛けていることが分かりました。
全てをお金に換算する
最初に実施したのが、次の4つのシナリオの金額シミュレーションです。それぞれのシナリオで、発生する費用、想定される家賃収入、予定される相続税額を試算して、更に起きうるリスクを全て並べて、比較のテーブルに載せました。
- 相続後すぐ売却する案「面倒なので売って、お金にしよう」
- そのまま引き継ぎ、一定期間で売却する案「アパートをそのまま引き継いで、一定期間でお金にしよう」
- そのまま引き継ぎ自分が建て替える案「アパートをそのまま引き継いで、老朽化してきたら自分で建て替えよう」
- 生前に親が建て替え引き継ぐ案「親の代で建て替えてもらって収益性を良くして引き継ごう」
ちなみに当税理士事務所は不動産売買や建て替えや賃貸の専門家ではないので、提携している相続専門の不動産会社に公平な視点で試算してもらう体制を敷いています。「提携している不動産会社に利益誘導されるのではないか」と思うかもしれませんが、売買等を行ったら報酬を支払う訳で無く、これらのシミュレーションのシナリオの作成に関する報酬を不動産会社に支払うことや、当税理士事務所が間に入って話を進めることにより、客観的な視点で選択肢の比較をすることができます。
K様の結論は「そのまま引き継ぎ、一定期間で売却する」
K様とお父様が参加して議論を重ねた結果、「そのまま引き継ぎ、一定期間で売却する」案を採用することになりました。主な理由は次の通りです。
- 収益シミュレーションで一番優れた結果が出たこと
- 入居者が安定して入っており、安定した家賃収入が見込めること
- 今のところ特に苦情などは寄せられていないこと
- 長く住んでいる入居者がいて、建て替え目的で退去させるのは困難そうなこと
- 父親が健在で、不動産に関する情報の引継ぎを安心して受けられること
「見習い期間」をご提案
当税理士事務所から、一つの提案をしました。それは「見習い期間」を設けることです。賃貸用不動産でよく起きる問題が「突然相続することになったが、その不動産のことが何も分からない」という状況が起こることです。
会社員でも見習い期間があり、先輩社員から学ぶ猶予期間があります。見習い期間は、どのような業態でも設けられるものです。しかし不動産賃貸は、「相続してから初めて」接点を持つことが多いのです。そのため、不動産に関する情報が分からないまま引き継ぐことになり、相続した人は大きなリスクを抱える可能性があります。
賃貸用不動産で急に相続した場合に疑問に感じることをいくつか挙げてみましょう。もし見習い期間を経ることなく直面したら、どう感じるか想像してみてください。
- 管理会社がどこまでの仕事をしてくれるのか、管理料は適正なのか
- 管理会社から請求がある、修繕・リフォーム・入退去に掛る費用が適正な金額なのか
- 顔も知らない入居者の方とのトラブルがあったときにどう対処すればいいのか
- どれくらい貯蓄があれば、各種トラブルに対応できるのか
- 今までどんな修繕や定期的なメンテナンスをどれくらいの周期でしてきたのか
- 今度どのような修繕を計画しているのか、どのくらいの貯蓄が必要なのか
- 修繕やメンテナンスをどこの業者に頼んでいるのか
- 加入している保険で、保障してくれる内容は何なのか
- 賃貸用不動産に関する書類はどこに纏まっているのか
- 確定申告はどのようにしたらいいのか
これらについて知らないことが大半なK様にはお父様がご健在なうちに、見習い期間として、これらの疑問を一つずつ解消していくことにしました。
まとめ
現在、K様は見習い期間として、お父様と二人三脚で川崎のアパート管理をしています。管理する中で把握していなかった問題も出てきたそうですが、「相続する前に知れて良かった」と仰っていました。
一番うれしかったのは、「公平な視点で選択肢を教えてくれたからこそ、責任をもてる決断ができて、父親とも良い関係を続けられている」という言葉です。当税理士事務所が「円満・円滑な相続サポート」を行っている理由は、まさにそのためだからです。
親は「大丈夫だろう」と楽観的に考えていることが、子にとって大きな負担になることがあります。「円満・円滑な相続サポート」は、両者の想いを共有して差を埋め、親と子が前向きな人生設計をするためのサービスです。当税理士事務所は引き続き、賃貸用不動産を始めとする様々な相続をサポートして参ります。