【事例紹介】いらない不動産の処分方法~原野・農地・林地~
「親が亡くなってから、不要な不動産の存在が発覚した」「売れる価値もなく、処分に困っている」という方は多いのではないでしょうか。川崎で相続専門の税理士をしていると、こうした「負の不動産」に関する悩みをご相談いただく機会はとても多いです。今回は、親が亡くなってから「負の不動産」の存在が発覚した、G様の事例をご紹介します。
置かれていた状況
G様は、川崎に事業所を持つ個人事業主です。お父様がお亡くなりになり、相続の手続きを行うことになりました。お母様は既にお亡くなりになっており、一人っ子だったこともあり、すべての財産を相続することになりました。
お父様の自宅で、相続税申告に必要な書類を探していると、固定資産税の通知書が自宅と遠方の地域からの2通あることに気付きました。遠方の地域の不動産について、その他に書類がないか詳しく調べると、父親が買った原野だったのです。
購入した不動産会社に問い合わせたところ、購入した頃は、周辺地域で観光開発が行われる話が持ち上がっており、土地の価格が高くなることを期待して、お父様が購入されたそうです。しかし観光開発される話は立ち消えになり、不動産としての価値はほとんどゼロになっていました。
解決方法
本当に金銭的価値が無いことを確認
購入したときの不動産会社からは「おそらく金銭的価値はないでしょう」と言われていたそうですが、G様としてはその不動産会社の信用性を疑問に思っていました。そこで、利害関係の無い不動産会社に、不動産としての価格評価をしてもらうことになりました。当税理士事務所が提携している、信用できる不動産会社をご紹介しました。
本当に価値がないものか業者への売却や個人間の売買など3ヶ月間活動をしましたが、1件も問い合わせがありませんでした。この結果を聞いてG様は原野の価値を理解され、何とかしたいという気持ちになったようです。
負の不動産の手放し方
価値がないものを持ち続けてもしょうがないというG様に対して、手放すための手段を2つ説明しました。
1つは相続土地国庫帰属制度といって、相続や遺贈により取得した不要な不動産を、一定の条件を満たした場合に限り、国が引き取ってくれるという制度です。不要な土地が放置されることにより、所有者不明の土地が増えることを防止するために令和5年4月27日から開始されました。しかし無償で国が引き取ってくれるわけではなく、土地の利用区分や面積等によって負担金を支払う必要があります。また、建物があったり、担保に入れられていたり、土地の境界が不明確だったりする等の土地は対象外です。厳格な審査を通す必要があるため、審査に通るかどうかもやってみないと分からず、また実際に引取りがされるまで時間がかかってしまいます。
もう1つは不動産会社による有償の引取りです。田畑などは農業委員会の許可が必要なものは対象外ですが、それ以外のものは基本的に引取りが可能です。報酬の他に、固定資産税や管理費の一定期間分を負担することになります。厳格な審査があるわけではないため、スムーズに引取りをしてもらうことができます。
持ち続けるべきか手放すべきかを判断
相続土地国庫帰属制度を利用したとしても、不動産会社に引き取ってもらっても、費用は50万円以上かかることが分かりました。G様としては「お金がかかるくらいなら、持ち続けておいた方がマシなのでは」という考えもありました。
そこで、仮に持ち続けた場合に、毎年どれくらいの負担があるのかを確かめました。G様の土地の場合、毎年の固定資産税は毎年3万円だったので、保有17年目で固定資産税の累計>引取り費用となることが分かりました。
持ち続けることについては、毎年3万円は支払いができない金額ではないものの、年数が経つと累積でかなりの金額になります。また、G様の相続の際に不要な原野についてもG様の子が相続税を払い、毎年3万円を払い続けることに負担感を感じられました。
以上の検討プロセスを経て、G様は原野を手放す決断をしました。
相続土地国庫帰属制度か不動産会社への引取りの比較については、原野の境界が不明瞭であること、厳格な審査で時間がかかること、また審査が通るかどうかも分からないため、相続土地国庫帰属制度は断念しました。これらのことを考慮し、G様の原野は不動産会社への引取りが最適、という結論に至ったのです。
G様からは、「コストがかかるが、最適解を選ぶことができた実感があり、自分としては納得している。子供たちに負の不動産を相続させることを防げたのも大きい」とコメントを頂きました。
さいごに
G様にご納得いただく形で、最終的な選択をして頂くことはできたのは、喜ばしいことです。
しかし今回の件における問題の本質は、親子が生前から相続に関する会話を、しっかりできていなかったことではないでしょうか。「親がどんな財産を持っているのか」「子はその財産を引き継いだとき、嬉しいのか、困るのか」「親としてはその財産を引き継いでほしいのか処分してもいいのか」といった話し合いをして、相互理解ができていれば、後になったG様がコストを負担することも防ぐことができたかもしれません。
川崎を拠点とする当税理士事務所は、事後の相続手続きだけでなく、生前の相続準備からサポートをしています。今回のような事例を避け、円満・円滑な相続をしたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。